2.桃山の大蛇
 
 昔、桃山(今の桃陵公園)の西の谷間に大きい藪があったそうな。
ある日、多度津藩の足軽がこの山へ薪を切りに行って帰りに松の枯木に腰をかけて休んでいると、そこへ一匹の小さい蛇がニョロニョロと出て来て、この足軽の足の指をチョロチョロとなめたので、足軽はその足で小蛇をけ飛ばしたが、またすぐ寄って来て足の指をなめ出した。
 そこで、足軽は、のんでいたたばこのヤニをとって、足の指にぬりつけて、その小蛇になめさせたら、小蛇はスグに苦しみ出して、西の谷間へ落ち込んだ。
 それと同時に、今まで腰かけていた松が動き出した。実はそれは松の木でなく大蛇になっていたので、驚いて逃げて帰ったが一ヶ月も熱が出て、寝込んでしもうた。
 それから半年もして兄弟の猟師が兔をここへ取りに行ったところ、一足先に行った兄の鉄砲や・キセル・ぼうしなどが散らかっている。よく見るとそばに長さ五間もある大蛇が大きな腹をして、グーグー寝ているので弟は、すぐ鉄砲をうとうとしたら、大蛇はザラザラと物凄い音を立てて、すぐ下の池に降りようとした。
 蛇が人や、動物を呑んですぐ水を呑むと、呑まれた人間や動物は融けてしまうと、よく聞かされていたので、その弟はスグそれに気がつき持っていた鉄砲を一発、蛇に打ち込んだら、その大蛇はキリキリまいして死んだので、このことを急いで、村の人々に知らせ、それから皆んなといっしょに元の所へ帰って見ると大蛇は固くなっていた。松の皮のようになっている大蛇の腹を弟は切った。そしたらその中から兄さんのむごたらしい姿が出て来た。それは頭の髪の毛は抜けてなく、身体のやわらかい部分はすでに半分融けかけていた。
 前の足軽に、たばこの「ヤニ」で苦しめられた、この大蛇は、縁もゆかりもない、この猟師がたばこをのもうとした時、怒りの敵き討ちをしたというお話である。
 この大蛇の頭の骨を昔はお祀りした小祠があったというが、今は無い。


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